こんにちは、19歳で初めて介護の仕事に就き、色々あり一般企業に勤めたりもしましたが、現在は介護歴7年で、介護福祉士の”うま”です。
みなさんユマニチュードってご存知ですか?
ユマニチュードとは「人間らしさを取り戻す」という意味をもつフランス語の造語です。
日本では2014年にNHK番組で紹介されてから注目されるようになり、「魔法のケア」と言われ現在では様々な医療機関や介護施設で実践されるようになりました。
今回はこのような疑問を持っている人に向けて、ユマニチュードをご紹介していきます。
ユマニチュードとは?
ユマニチュードとは、フランスで1979年にイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発し、2012年に日本に渡ってきた「ケアの技法」です。
主に4つの基本の柱と5つの実践ステップでケアを行います。
人は他の誰かから尊重されることで初めて「人間らしさ」を獲得できる。
引用:日本ユマニチュード学会ホームページ
ユマニチュードは4つの柱で「あなたを大事に思っています」という思いを伝えます。
そして、全てのケアを5つのステップで実践します。
「見る・話す・触れる・立つ」これは一見人と人とのコミュニケーションで当たり前に行われる行動です。ではなぜこれらが「魔法のケア」と言われるのでしょうか。
それは、多くの医療現場や介護現場ではこれらの当たり前のコミュニケーションが正しく行われていない現実があるためです。
当たり前のコミュニケーションを、当たり前に行えない現場の現状(時間に追われるなど)もありますし、従事者の認識の低さもあります。
ユマニチュードは高齢者だけではなく、ケアを必要とする全ての人が対象ですが、認知症の方に大きな効果が現れます。
また、介護の仕事をしている人だけではなく、家族の介護をしている人でも実践できます。
ユマニチュードの基本の4つの柱
ユマニチュードには基本の4つの柱があります。これらの4つを通して「あなたを大事に思っています」という気持ちを伝えます。
4つのうち一つだけではうまくいきません。
複数を組み合わせることによって相手に届くことができます。
「見る」技術
ただ目線を向けるのではなく、「視線をつかみにいく」ことが重要です。
- 「見る」=存在している
- 「見ない」=あなたは存在していない
認知機能が低下している方の場合、外部からの情報を受け取れる範囲がとても狭くなっています。そのため、一方的にケアを行おうとすると「暴力や暴言」で自分を守ろうとします。
「見る」の基本には以下のようなものがあります。
「話す」技術
寝たきりの利用者さんや、重度の認知症の方の介助をするときに「どうせ聞こえていない」と思って適当に声かけをしていないでしょうか?
「話しかけない」=あなたは存在していない
また、忙しい業務の中でケアが一方的になり、「じっとしていてください」や「〇〇します」というような命令形の話し言葉になっていないでしょうか?
ユマニチュードでの「話す」とは、ただ言葉を発するのではなく「相手に優しさを届けるため」にポジティブな言葉を発します。
相手と意思疎通が難しい場合でも常に話しかけ、「自分が行っているケアの様子」を言葉にします。
「触れる」技術
「触れる」という行為は、相手の感情をダイレクトに受け取る行為です。
- ポジティブな触れ方=「広く・ゆっくり・柔らかく」
- ネガティブな触れ方=「小さく・急に・強く」
私たちは体位交換の時や清拭、オムツ交換など些細な瞬間に「つかむ」という行為を無意識にしていることがよくあります。
普段の日常で人は「人から急につかまれる」ということは経験しません。しかし、介護の現場では多くの人が無意識にそのことを行なっています。
ユマニチュードでの「触れる」とは、ケアを受ける人に優しさを届けるための技術です。
自分が普段どのような触れ方をしているのか意識してみてください。
「立つ」技術
人は「立つ」ことで身体機能に対して様々な良い影響を与えますし、「人間らしさ」の表出の一つでもあります。
「立つ」=一人の人間であることを認識する行動
しかし本来なら立つことができる人でも、寝たきりでケアを受けている現場がありますが、その人の「レベルに応じたケア」をすることが重要です。
人は3日~3週間ほどで寝たきりになると言います。
立つことができると判断される人には1日20分でも、立つ時間を作ることで寝たきりを防ぐことができます。
出会いから別れまでの5つのステップ
4つの柱を組み合わせて実際にケアする手順のことを「5つステップ」と言います。
ケアする人の存在に気付いてもらい「この人とは良い時間を過ごせる」と感じてもらうための効果的なアプローチです。
全ての人ではないですが、認知症と診断された方の多くがケアを穏やかに受け入れるようになるそうです。
STEP1「出会いの準備」
「ノック」をすることで自分が来たことを知らせ、「ケアの予告”をするプロセス」です。
次の手順は応答がない時の場合です。
- 3回ノック
- 3秒待つ
- 3回ノック
- 3秒待つ
- 1回ノックしてから入室する
- ベットボードをノック
入室の際に「ノック」をするのは当たり前ですが、覚醒水準の低い方だと一度のノックでは気づかれていないことが多くあります。
「気付いていない」ということは相手にとっては「していない」と同じです。
相手がケアに同意していないのに突然布団をめくってしまったら、認知機能が低下している人は驚き、怯えて拒否する可能性があります。
ノックが多すぎると感じますが、何度かノックをすることで覚醒水準を高めることができます。
※一回目のノックで返事があれば二回目のノックは必要ありません。
STEP2「ケアの準備」
第二のステップは「ケアについて合意を求めるプロセスです」
- 正面から近づく
- 相手の視線をとらえる
- 目があったら2秒以内に話しかける
- 最初からケアの話はしない
- 体のプライベートな部分にいきなり触れない
- ユマニチュードの「見る・話す・触れる」を使う
- 3分以内に合意がとれなければケアは後にする
所要時間は20秒から3分です。
ユマニチュードのこの技術を用いることで、攻撃的で破壊的な動作・行動を83%減らしたという報告もあります。
ここで大切なことは「3分以上時間をかけない」ことです。
強制的なケアは不穏な空気を作り、ネガティブな印象を相手に植えつけてしまい、結局デメリットしかありません。
初めはスムーズにいかないかもしれませんが、徐々に信頼関係を築いていくことが大切です。
STEP3「知覚の連結」
ケアの同意が得られたら、次は実際にケアを行います。
この際「見る・話す・触れる」のいずれかを2つ以上同時に行うことが重要です。
笑顔と穏やかな声、優しい触れ方、これらを同時に使って「視覚・聴覚・触覚」の3つの感覚へポジティブなメッセージを伝えます。
ケアを受ける人が「心地よく感じられる状態」のことを「知覚の連結」と言います。
STEP4「感情の連結」
ケアが終わって、気持ちよくケアが出来たことを利用者さんの記憶にしっかり残し、次のケアに繋げることが「感情の連結」です。
- ケアの内容を前向きに確認する→「シャワーは気持ちよかったですね」
- 相手を前向きに評価する→「シャワーをして素敵になりましたね」
- 共に過ごした時間を前向きに評価する→「とても楽しかったです」
認知機能が低下しても、感情記憶は保たれます。
「この人は嫌なことをしない」「自分にとって良い人だ」という感情記憶を残すことが大切です。
ケアが終わってすぐに退室するのではなく、たった数分のコミュニケーションでポジティブな感情記憶を残してみてください。
STEP5「再開の約束」
ケアが終わって側を離れる際に「再会の約束」をします。
前のステップの「感情の固定」によってポジティブな印象を残し、「再会の約束」のよってまた来ることを伝えます。
認知症の方ですと、次に来たときには以前のことを忘れているかもしれません。
しかし「楽しかった」「よくしてくれた」という感情の記憶は残っています。
心地よい記憶が残っていれば、スタッフの顔をみて笑顔で迎えてくれるでしょう。
拒否の強い方は、最初からうまくはいきませんが、感情の積み重ねで信頼関係を築くことができます。
実際にユマニチュードを実践した人の声
訪室するときは「お話をしに来ました。そのついでに、よろしければお体を拭いて構いませんか?」というように関わると良いと思います。そうすると、強制的な雰囲気が一気に減ります。そのことによって生じる患者さんの反応の違いにはいつも驚かされます。
参考文書:「ユマニチュード入門」
私はそれまでノックはしていましたが、患者さんの反応を待たずにお部屋に入ったこともありました。ユマニチュードの研修を受けてからは、ノックをして、もし反応がなくてももう一度ノックします。そうして待っていると「はい」と返事があったり、言葉を発するのが難しい人方も、ドア側を向いて反応してくださることがあり、そのことにまず驚きました。
参考文書:「ユマニチュード入門」
「握手をして別れる」というのは意外に大切なことだと思いました。私たちはこれまでケアが終わったら「はい、終わりました」と言ってその場を去っていました。「忙しい忙しい」という雰囲気を醸し出して。けれども「また来ますね」と言って握手するという、ほんの数秒で済む関わりによって、次回来たときに好意的に受け止めてもらえるということをよく経験します。
参考文書:「ユマニチュード入門」
私は、4年前に「ユマニチュード入門」を購入。当時勤務していた認知症対応のグループホームで、介助困難とされていた超高齢のFさんとの係わりで実践。おむつ交換では激しく抵抗されるため二人で対応していた彼女への介助が、私一人で十分対応できるほど、ユマニチュードの効果は大きかった。私の係わりに対して、「この人は特別じゃ」「この人は優しいけぇ」「あんたは私を見てくれる」・・97歳Fさんからの最高のフィードバックでした。
引用:Amazon「ユマニチュード入門」購入者コメントより
ユマニチュードは当たり前?
「ユマニチュードは介護士だったら、医療従事者だったら当たり前のこと。今さらやることじゃない」そのような声もあります。
ユマニチュードとは人と人が良い関係を築くために私たちが「当たり前」にしている行動です。
しかし医療や介護の現場で、相手が患者さんや利用者さんになると「当たり前」にできていない現場があるのも現実です。
それは現在の医療や介護業界が抱える「圧倒的な人手不足や労働環境の悪さ、激務、収入の低さ」などの様々問題も原因の一つです。
「毎日時間に追われ、一人ひとりにそこまで対応する余裕はない」
確かにその通りです。
しかし、全てを完璧にやろうとするのではなく、「目を合わせて会話」や「優しいボディータッチ」など数秒でできることから始めてみるといいと思います。
大切なことは、目の前の利用者さんも「一人の人間である」という尊重する気持ちを持つことです。そして、その思いを相手がわかるように伝えることです。
まとめ
今回「ユマニチュード入門」という本を見つけ、とても興味深かったのでユマニチュードについてご紹介しました。
無意識的にできている人もいれば、全くできていないと思う人もいると思います。
私もこれから介護の現場に立つときはもちろん、普段の生活でもこのユマニチュードを思い出し実践していこうと思いました。
人は他者から人として遇されなければ「人たる特性」を持つことができません。あなたが私を人として尊重し、人として話しかけることによって、私は人間になるのです。
引用:「ユマニチュード入門」著者イヴ・ジネスト