こんにちは、19歳で初めて介護の仕事に就き、色々あり一般企業に勤めたりもしましたが、現在は介護歴7年で、介護福祉士の”うま”です。
今回は、主に自宅で家族介護をされている方が介護疲れや介護うつになってしまう主な原因や、今年2020年4月に全国で初の「ケアラー支援条例」が制定された内容と、海外の福祉先進国のケアラー制度の紹介をしていきます。
『介護疲れ』が原因の事件が増加している
昨年2019年に厚生労働省は、2017年度の1年間に発覚した65歳以上の高齢者に対する虐待の件数が、過去最多の1万7588件にのぼったと明らかにしました。
この中で、介護職員が加害者となっているケースが510件、親族や同居人が加害者となっているケースは17.078件にもおよび、虐待かその疑いで亡くなった人は28人だったそうです。
また、2020年はコロナの影響で介護施設や介護事業所が休業に追い込まれたことにより、今まで施設に預けていた方が自宅へ戻らざるを得なくなってしまったり、デイサービスや訪問介護サービスなどの規模縮小により、家族の負担が大きくなってしまっている現状があります。
そのため、今までよりさらに介護者の負担が増し、結果介護疲れによる事件が増えてしまうことが予想されます。
在宅介護の実態
在宅介護における主な介護者は、配偶者かその子が約半数を占めていて、男女比で見ると全体の約7割が女性で、年齢の7割近くが60歳以上となっています。
在宅介護における介護者の主な悩みは以下のようなものがあります。
主な介護者が「介護うつ・介護疲れ」になってしまう原因は様々ありますが、上記の内容をみても、精神的な負担によるものが大きいことがわかります。
社会からの孤立化・疎外感
在宅で介護をしている介護者は、日中に訪問介護サービスや、デイサービスを利用していたとしても、夕方からの時間帯や土日祝日は介護から離れることができないため、自分の時間が制限されてしまい結果、社会や周囲と孤立してしまい疎外感を感じ、ますます内に入り込んでしまう傾向があります。
また、責任感が強く真面目な人ほど、何か問題が起きても「自分でなんとかしなくては」と思ってしまい、限界がきても周りに助けを求めることができずにいる現実もあります。
今まで仕事などで社会に貢献してきた方や、友人などによる外部の交流をしていた方は、介護生活とのギャップにより「社会から必要とされていない」と感じてしまったり「自分の生活を奪われた」と感じてしまいます。
介護者が要介護者への虐待や殺人などの事件を起こしてしまうまでの時期は、介護生活が始まって1年以内が最も多いそうです。
仕事終わりに飲みに行ったり、休日に出かけたりできなくなった。周りはみんな楽しそう…
介護離職をしてから社会との関わりが無くなった。介護が全ての生活はいつまで続くのか…
長時間の介護によるストレス
在宅介護をされている方の中には、介護保険で利用できる訪問介護や、日中に通所しながら食事や排泄、入浴やリハビリなどのサービスを受けられるデイサービスなどのサービスを利用していない方もいらっしゃいます。
理由は色々あると思いますが、一つは要介護者が拒否している場合です。
人にお世話になることに強い拒否感を持っていたり、もともと人見知りで周囲と馴染めないためだったり、認知症の症状によって拒否するなどの理由があげられます。
このような場合は、無理に利用を勧めてもさらに拒否が強くなり逆効果になってしまうため、対応が難しく、結果同居の介護者が自宅で全ての介護をしなくてはいけなくなってしまい、大きなストレスになってしまいます。
また、夜間のトイレ介助や頻回な呼び出しなども介護者の大きな負担になってしまいます。
毎日介護に追われ、自分の時間が持てなくなった…
日中は仕事で疲れ、夜間は介護でまともに休めない。いつか自分が倒れてしまう…
こちらの記事では、「介護負担の軽減の仕方」をご紹介しています。
「家族が介護しなくてはいけない」という呪縛
日本は長い間「年老いた親や配偶者の面倒は自宅で最後まで身内が看るもの」という考えがあります。
家族を大事にする気持ちや、親に対する敬意、長年連れ添った配偶者を思う気持ちはとても素晴らしいものですし、家族で介護することで得られるメリットもたくさんあります。
しかし、家族という閉鎖的な関係のため、問題が起きても表面化しずらく主な介護者一人に負担がかかってしまうデメリットもあります。
「施設に入れるのは可哀想」「住み慣れた自宅で最後までみてあげたい」と思う気持ちはとても理解できますし、親を施設に預けることに罪悪感を感じてしまったり、周囲から批判を受けるのではと思ってしまのも理解できます。
しかし、今の日本の現状は核家族化が急速に進み、少子化により子供の数も減り、隣近所と家族のように助け合ってきた繋がりも少なくなった今、家族だけで介護をすることは、身体的にも精神的のも困難です。
昔と今の家族のあり方は大きく変わっているのに「身内の面倒は身内が見るもの」という意識だけが根付いていしまっているため、主な介護者のみに負担が集中してしまった結果、昨今のような悲しい介護殺人などの事件が起こってしまっているのではないでしょうか。
また、日本は昔から「長男と結婚する女性は、長男の親と同居することが当たり前」とされてきていて、さらに「年老いた義両親の世話は嫁がするもの」という考えが根付いていました。
先ほどの、主な「介護者の男女比」を見てもわかるように、圧倒的に介護者に女性が多いのも、このような意識がまだ根強く残っている為だと言えます。
介護者への支援やケアが十分になされていない現状を見たら、「家族が介護しなくてはいけない」という意識を変えていくことが必要なのではないでしょうか。
あと「家族での介護に限界が来る前に、介護は介護のプロに任せる」ということが当たり前になるためには、当然介護従事者への報酬や待遇も上げていく必要があります。今の介護職の現状は、労力と対価が見合っていないので深刻な人手不足にあります。
今後の超高齢化社会を乗り越えていくには、その辺りの整備も課題になってきます。
2020年4月日本で初めての「ケアラー支援条例」
今まで日本は、要介護者への支援ばかり進められていて、介護をしている人への支援・ケアに対して政策がありませんでした。しかし、今年2020年4月に埼玉県で、日本初となる「ケアラー支援条例」が成立し話題を集めました。
「ケアラー」とは、以下のような人のことを言います。
高齢、身体上又は精神上の障害又は疾病等により援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を提供する者をいう。
埼玉県公式ホームページより引用
また、ケアラーのうち18歳未満の方を「ヤングケアラー」と言います。
日本では「家族介護は、愛情または義務でやるもので、対価を得るものではない」とされているため、365日24時間全て介護に捧げても、介護者は何の対価を得ることはできません。
それが当たり前とされてきました。
しかし、海外の介護福祉の先進国を見てみると、なんと50年以上前からケアラー運動(介護する側の権利擁護)が行われていて、介護者の権利を国でも守っていくという政策が進められ、介護者(仕事ではない)への金銭の援助もされているところもあります。
日本は、世界トップクラスのの高齢化大国です。要介護者の支援だけではなく、介護者の支援・ケアに力を入れて行かなくてはいけない時に来ているのです。
今後の未来を担うはずの18歳未満のヤングケアラーや、40代50代の働き盛りの人が介護が理由で離職しなければならない状況は、日本の国益にも影響してきます。
そのため、今回の埼玉県での「ケアラー支援条例」は大きな一歩で、今後全国的に広まってくと期待しています。
日本におけるケアラー支援とは
それでは日本における「ケアラー支援」とはどういったものなのでしょうか。今回埼玉県で成立した「ケアラー支援条例」から参考に見てみたいと思います。
埼玉県の「ケアラー 支援条例」の基本理念の一部を見ていきます。
1.ケアラーの支援は、全てのケアラーが個人として尊重され、健康で文化的な生活を営むことができるように行われなければならない。
2.ケアラーの支援は、県、県民、市町村、事業者、関係機関、民間支援団体等の多様な主体が相互に連携を図りながら、ケアラーが孤立することのないよう社会全体で支えるように行われなければならない。
埼玉県公式ホームページより引用
具体的な政策として今現在、有識者会議で議論されているそうです。
また、自治体よりも先にすでに多くのNPO法人が、先進的な取り組みをされていて、日本社団法人「日本ケアラー連盟」では以下のような取り組みがされています。
日本ではまだ始まったばかりのケアラー支援ですが、今後さらに推進してもらい、介護者を守る日本になって欲しいです。
海外のケアラー支援
イギリスやオーストラリアはすでにケアラー支援が法律に明記されていて、実際に公的機関からの支援を受けることができます。
日本と海外は、文化や慣習が違うため、一概に比べることはできませんが、実際に制度として取り組んでいる海外の政策から、日本も参考にできる内容もあると思います。
イギリスを含め、福祉先進国と呼ばれるヨーロッパ諸国でも、1990年以降福祉改革がどんどん進み、ケアラーへの人権擁護の観点も注目されるようになりました。
日本も、今後さらに加速する超高齢化社会を進んでいくためにも、介護する側の支援やケアを充実していく必要があるのだと思います。
まとめ
最近では記憶に新しい事件で「22歳の女性が、親族や周囲の助けを得ることができずに、一人孤独に介護と闘い、結果祖母を殺害してしまった」というニュースがありました。
また、少し昔になりますがとても印象に残っている事件で「2006年京都府の桂川の遊歩道で、無職の男性が生活困窮のため、認知症の母親と無理心中をはかり、母親を死亡させた」という事件もありました。
家族介護に限界を感じ、それでも周囲には彼らを助ける手は無く孤独の中起きてしまった事件です。
このような事件が一件でも減ることを願って、今後日本におけるケアラー支援の促進を期待します。