今日本における介護を必要としている”要支援・要介護”認定を受けている人口は2015年時点で約600万人になっています。
要介護者を介護する人が、親や配偶者などの身内が担うケースが多い日本は、まさにその世代である”働き盛り”の人たちが介護と仕事の両立の問題に直面しています。

親が倒れてしまった…介護をしないといけないので仕事は辞めないといけないのかな….。

親の通院に付き添わないといけないから、仕事を半日休みたいけど…。

親の介護で年休を使い切ってしまったけど他に使える制度はないかな…。
介護は育児とは違い、いつ終わるかわからない先の見えないことが大きな特徴です。そんな中で働きながら長く介護をしていくためには、今どういう職場環境にいてどんな制度を利用できるのかを知ることが、重要になってきます。
今回は働き世代の介護者が、離職をせずに仕事と介護を両立していけるために使える国の制度などをご紹介していきます。
介護離職の実態

平成28年10月から平成29年9月の1年間に、介護・看護のために前職を離職した人は9万9千人。うち男性は2万4千人、女性は7万5千人で、女性が8割を占めていました。

介護離職の理由
また、男女別に介護や看護を機に離職した主な理由として厚生労働省がアンケートを取った結果が以下のように挙げられました。
・仕事と介護の両立が難しい職場だったため:男性62.1% 女性62.7%
・自分の心身の健康状態が悪化したため:男性25.3% 女性32.8%
・自身の希望として介護に専念したかったため:男性20.2% 女性22.8%
・施設へ入所できず介護の負担が増えたため:男性16.6% 女性8.5%
・自分自身で介護するとサービスなどの利用料を軽減できるため:男性11.0% 女性8.1%
・介護を機に辞めたが、理由は介護に直接関係ない:男性9.9% 女性9.8%
・家族や親族からの理解・協力が十分に得られなかった又は家族 や親族が介護に専念することを希望したため:男性9.7% 女性13.2%
・在宅介護サービスを利用できず介護の負担が増えたため:男性9.1% 女性5.5%
・要介護者が介護に専念することを希望したため:男性5.9% 女性8.3%
一番多い離職の理由が「介護と仕事の両立が難しかったため」となっています。
実際介護を継続して行うには経済的な負担もかかってきます。介護のために離職することで経済が困窮してしまうケースもあります。
また、介護が終了した後の生活を視野に入れて考えても、経済的基盤は重要です。
介護に直面しても、すぐに退職することなく介護ができるように国の様々な制度を利用していきましょう。
要支援・要介護の状態区分

区分 | 目安 | |
要支援1 | 要介護認定等基準時間が 25 分以上 32 分 未満又はこれに相当すると認められる状 態。 | <社会的に支援が必要な状態> 日常生活の基本動作はほとんど自分でできる が、悪化防止のためのなんらかの支援が必要 |
要支援2 | 要介護認定等基準時間が 32 分以上 50 分 未満又はこれに相当すると認められる状 態のうち要支援状態にあること。 | <社会的に支援がさらに必要な状態> 身の回りの動作能力がさらに低下しなんらか の支援が必要だが、状態の維持・改善の可能 性が高い。 |
要介護1 | 要介護認定等基準時間が 32 分以上 50 分 未満又はこれに相当すると認められる状 態のうち要介護状態にあること。 | <部分的に介護を要する状態>立ち上がり・歩行が不安定で、日常生活の基 本動作や身の回りの動作になんらかの介助が 必要 |
要介護2 | 要介護認定等基準時間が 50 分以上 70 分 未満又はこれに相当すると認められる状 態。 | <軽度の介護を要する状態> 立ち上がり・歩行や日常生活の基本動作、身 の回りの動作に部分的な介助が必要。 |
要介護3 | 要介護認定等基準時間が 70 分以上 90 分 未満又はこれに相当すると認められる状 態。 | <中等度の介護を要する状態>立ち上がり・歩行や日常生活の基本動作、身 の回りの動作に全面的な介助が必要。 |
要介護4 | 要介護認定等基準時間が 90 分以上 110 分未満又はこれに相当すると認められる 状態。 | <重度の介護を要する状態>日常生活全般で動作能力がかなり低下し、介 護なしでは日常生活を営むことが困難。 |
要介護5 | 要介護認定等基準時間が 110 分以上又は これに相当すると認められる状態。 | <最重度の介護を要する状態>日常生活全般で動作能力が著しく低下し、介 護なしでは日常生活を営むことが不可能。 |
上の表を見ても分かるように、要支援1が一番介護負担が軽く、要介護度が上がるほど介護者の負担も大きくなっていきます。
また、在宅介護か施設に入居されているかによっても介護者の負担は変わってきます。
介護ステージごとの悩み
介護ステージ上がるごとに介護離職をする人が増えてきます。
働きながらできること
働きながら介護をしていくには、今現在どこのステージにいて、何を準備していけばいいのか把握してみましょう。
- 仕事と介護の両立への意識をする
- 仕事と介護の両立支援制度を知る
- 職場の相談窓口を知る
- 介護の情報や知識を得る
- 親や家族とコミュニケーションをとる
- 自分のワークバランス・ケアバランスをイメージする
- 職場の窓口や、上司に相談する
- 仕事と介護の両立支援制度を活用する
- 職場の業務を調整する
- 上司や人事部署への継続的な報告
- 自分自身の心身の健康管理
休暇・休業の取得に関する制度
家族の介護を行う労働者の「仕事と介護の両立」を支援する法律として、「育児・介護休業法」 があります。
この法律では、労働者が介護休業などを取得する権利を定めるとともに、事業主に短時間勤務制度などの措置を講じるよう義務付けています。
職場の両立支援に関する制度等については、育児・介護休業法で定められ ている制度のほか、会社独自で支援制度を設けている場合があります。自社にどのような制度があるのか、人事労務担当者等に確認してみましょう
- 介護休業
- 介護休業給付金
- 介護休暇
介護休業(介護が長期間になる場合・介護初動の準備)
●取得できる休暇の日数:要介護状態にある対象家族1人につき通算 93日まで、3回を上限として、介護休業を取得することができる。
●対象者:同一の事業主に1年以上雇用されている。
●要介護者の範囲:配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。
●要介護者の対象:2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態。(要介護認定)
●申請方法:休業開始予定日と終了予定日を明確にし、開始日の2週間前に事業主に書面で申請。
●休業中の給与:基本的に無給
介護休業給付金
●給付の条件:2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある家族の介護のための休業である。
●手続き:在職中の事業所を管轄するハローワークに申請(申請は原則、事業主を経由して行う)
●給付額:「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」で算出。
・平均して月額15万円程度の場合、支給額は月額10万円程度
・平均して月額20万円程度の場合、支給額は月額13,4万円程度
・平均して月額30万円程度の場合、支給額は月額20,1万円程度
●給付までの期間:支給決定日から約1週間で指定の口座に振り込み。
詳しくは、厚生労働省ホームページ「雇用保険制度」をご参照ください。
介護休暇(介護が理由の突発的な休暇に対応)
●取得できる休暇の日数:要介護状態にある、対象家族1人につき、1年度に5日まで、一日単位または半日単位で取得できる。
●対象者:雇用期間が半年以上。正社員をはじめ、アルバイトやパート、派遣社員や契約社員も含まれる。
●要介護者の範囲:配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。
●要介護者の対象:2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態。(要介護認定)
●申請方法:電話や口頭での申し出もOK
●休業中の給与:基本的に無給
就業時間短縮に関する制度
事業主は、①短時間勤務制度(短日勤務、隔日勤務なども含む)、②フレックスタイ ム制度、③時差出勤制度、④介護サービスの費用助成のいずれかの措置について、介護休業とは別に、要介護状態にある対象家族1人につき利用開始から3年間で2回以上の利用が可能な措置を講じなければなりません。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制度
- 時差出勤制度
- 所定外労働の制限
- 法定時間外労働の制限
- 深夜業の制限
所定外労働の制限
1 回の請求につき1月以上1年以内の期間で、所定外労働の制限を請求することがで きます。請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要なときに利用することが可能です。
法定時間外労働の制限
1回の請求につき1月以上1年以内の期間で、1か月に24 時間、1 年に150時間を超える時間外労働の制限を請求することができます。請求できる回数に制限はなく、 介護終了までの必要なときに利用することが可能です。
深夜業の制限
1回の請求につき1月以上 6月以内の期間で、深夜業(午後10時から午前 5 時まで の労働)の 制限を請求することができます。請求できる回数に制限はなく、介護終了 までの必要なときに利用することが可能です。
まとめ
職場には育児・介護休業法の「介護休業制度」による、仕事と介護の両立支援制度が定められています。これは法律で定められた制度です。
これらの制度をいざというときに活用するためには、日々の業務の見える化や効率化を図っておくことが大切です。周囲に相談しながら、情報共有や連携をとり、いざ介護が必要になったときにどんな働き方ができるのか見直してみるといいと思います。
介護保険制度とともに職場の制度も組み合わせることで”仕事と介護の両立”にチャレンジすることができると思います。