今回は、介護現場で起こるクレームがなぜ起こるのか、原因と対策についてご紹介します。
令和2年に、東京都国民健康保険団体連合会が「介護サービス苦情白書」に掲載した内容によりますと、令和元年度分に寄せられた苦情・クレームの中で、最も多かった内容はかのようになっています。
主な「サービス提供・保険給付」のクレーム内容は以下のようなものがありました。
今回は、実際に介護現場で勤めている方が一度は経験したことがあるかもしれない「家族や利用者さんからのクレーム」について、その原因と対策、予防策についてご紹介していきたいと思います。
介護現場でなぜクレームが起きるのか
まず初めに、なぜクレームが起きてしまうのでしょうか。
原因は様々ありますが、今回は大きく分けて2つの事について見ていきます。
1.信頼関係が築けていないから
小さいクレームから、大きなクレームまで、クレームの種類は多岐に渡りますが、なぜクレームにつながるかというと、大きな要因の一つは、「信頼関係」が築けていないからです。
逆を言うと、利用者さんやそのご家族と、良い関係が築けていれば、大体のことはクレームになりません。
介護の仕事は人間が行うことなので、全ての職員が100%完璧にミスなくこなすことは不可能です。気をつけていても、どこかで大なり小なりミスは起こってしまいます。
そんな時に、利用者さんやそのご家族に許してもらえるかどうかは(内容によりますが)、日頃の信頼関係ができているかどうかにかかってきます。
利用者さんやそのご家族と信頼関係ができていると、「事情と都合」を考えてくれるようになります。
逆に不信感がある状態で事故が起きると苦情になりやすく、さらには訴訟に発展する場合もあるのです。
なので、クレームが起きにくくするためにはまず第一に「信頼関係」を築くことが大切です。
2.対応が業務的になっているから
次に、クレームになる原因としてあげられるのが「職員の対応が業務的」だからです。
心ない接遇を繰り返していれば、いつまで経っても信頼関係が築けず、後々大きなクレームにつながってしまいます。
先ほどの「信頼関係」ともつながりますが、介護現場は人対人です。
介護を受ける利用者さんも、そのご家族も「血の通った対応を受けたい」と思っています。
ましてや、大切な家族を預けているのですから、きちんと大切にお世話して欲しいと思うのは当然です。
対応を見直して、信頼関係を築くことで様々なクレームは防ぐことができます。
介護現場で起きやすい2つのクレームの予防と対応
それでは、実際に起きやすい2つのクレームと、その対応策についてみていきたいと思います。
処遇面でのクレームとその対応策
まず一つ目は「処遇面でのクレーム」です。
処遇面で特に起こりやすいクレームはこの2つが挙げられます。
ご家族が面会に来た際に、職員がろくに挨拶もせず、利用者さんに偉そうな態度をとっている姿を見かけたら、ご家族はどう思うでしょうか。
きっと、面会に来ていない場面で、うちの両親は(夫、妻は)普段どのような扱いを受けているのだろうと、不安に思うでしょう。
しかし、あからさまな虐待ではなく、不適切な接遇に関しては、なかなか言葉に出して言えないものです。
しかし、このような不信感が募り、きっかけ一つで大きなクレームにつながってしまいます。
また、対応の遅れもクレームになりやすいです。
止むを得ない事情で対応が遅れることはありますが、そのような時でも、利用者さんやご家族が「ほっとかれている」と思わないように、こまめな状況説明は必要です。
金銭面でのクレームとその対応策
金銭面でのクレームも様々な場面で想定されます。
起こりうる大体の理由は、「最初に聞いていた利用料金と違う」ということです。
介護保険制度において、3年に一度介護報酬の見直しが行われます。つまり、3年に一回は利用料金が変更されるのです。
サービスを利用する前に必ず、利用料金の説明はしますが、介護報酬の改正に伴い、その時に説明した金額より支払う額が多くなることがあります。
介護保険では、2018年にも所得に応じて3割負担となった方もいらっしゃいます。高くなった支払い金額にクレームを言われる方もいます。
ただ、これもサービスを開始するときやその都度に、「今後利用料金が変わる可能性があります」と説明するしかありません。
サービス開始時のみに説明するだけではなく、料金が変わる可能性があるときは事前に説明をし、なぜ変わったのかも分かりやすく説明しなくてはいけません。
クレームを受けた時に気をつけること
最初の対応が肝心
なかなか解消されにくいクレームの多くは、最初の対応で誠意を持った対応をせず、相手方に「なんでそんなに偉そうなんだ」と思われてしまっている場合です。
こじれてしまったクレームの多くが、謝罪の初動が遅れた場合なのです。
苦情受付窓口の対応が悪かったというだけではなく、介護士や看護士の最初の対応も肝心です。
道義的責任の上、きちんと謝罪する
今はあまり言われなくなりましたが、昔は「クレームが来た時にはすぐに謝らないほうが良い」と言われてきました。
状況を確認せずに、すぐ謝ってしまうと、本当に施設側が悪いのかどうかが分からないのに非を認めてしまうことになるからだそうです。
しかし、すでにクレームを言われれ怒っている人に対して、謝りもせずにいたら火に油を注いでしまうだけです。
事実がわかっていない事に対しては、謝る必要はありませんが、クレームを言われるような嫌な気持ちにしてしまった事に対しては、道義責任の上誠意を持って謝りましょう。
「情」を持って対応する
悪質なクレーマー以外は、
情を持って対応すれば、大きなクレームには繋がりません。
事故などにより、保険会社を通すことになった際にも「あとは保険会社に任せているので」といった対応で済ませるのではなく、最後まで誠意を持って対応しましょう。
クレームを言われる方も感情のある人間です。先手をとって上っ面ではない誠意のある対応をして、今後についても曖昧ではなく、明確な方向性を伝えれば、大体の場合は大きくなりません。
理不尽なクレームには毅然とした態度を
クレームは場合によっては、とても理不尽なことを言われる場合もあります。
学校や病院にモンスターペアレンツや、モンスターペイシェントなどがいるように、介護の世界にもモンスタークレーマーは存在します。
もし電話でクレームを言ってこられた場合は、まずしっかり傾聴しましょう。
興奮状態のある方に、頭ごなしにこちらの言い分を伝えたところで聞く耳を持ちません。
できれば、直接お会いしてお話を聞くのが良いです。
その場合は、自宅にいくのではなく、施設や事業所にきてもらって話すのが良いです。(理不尽でないクレームは早急に自宅へ伺います)
感情的になっているクレーマーに対しては、まず感情を煽らないことが大切です。
しばらくすれば怒りのエネルギーは収まってくるので、煽ってしまうといつまで経っても、まともにお話しすることができません。
相手が冷静になってきたところで、「できること、できないこと 」を毅然とした態度で説明しましょう。
しかし、その時もこちらの意見を一方的に伝えるのではなく、相手の話をよく傾聴しながら、双方の落とし所を探すのがポイントです。
理不尽なクレームを一度受け入れてしまうと、その後もずっと容認し続けなくてはいけなくなります。
怒らず煽らず、毅然とした態度で対応しましょう。
まとめ
クレーム対応はとても大変です。
まずは、利用者さんやそのご家族と良い関係性を築くことが大切です。一人の介護士だけが良いのではなく、介護職員、看護職員など、多種職がそれぞれの役割の中で関係性を築くことが大切です。